東武鉄道では、1997年以降に製造された車両に車上データ監視装置を搭載し車両検修に活用されてきましたが、その都度車両からデータを取得する必要がありました。2016年からIoT等の技術革新により走行中の列車からリアルタイムで様々な車上データの送信が出来るようになり、詳細なデータを取得、蓄積、分析することが可能となったことから今後さらなる活用を目指して東武鉄道と日立製作所が共同で車上データ有効活用システムRemote(Remotemonitoring of train to use effectively)を開発し、昨年度から本格運用を開始しています。
このシステムでは、乗車率、速度、架線の電圧、ノッチの値、社内の温度、機器の状態などを取得し、本社や車両基地、運行管理所などから車両のデータを常時確認することが可能で、時間帯ごとの乗車率を分析してダイヤの最適化に活用することが出来ます。走行パターンを分析して省エネ運転を推進することも可能で、省エネ運転をするには一般論として加速するためにノッチを入れて主電動機(モーター)へ通電する時間を短くし、ブレーキを緩やかに掛けることではありますが、運転士によって消費電力に10ー15%くらいのばらつきが生じていました。そうしたばらつきを解消し消費電力量を抑えた運転を徹底するために、Remoteで取得した速度や消費電力量のデータを活用し、蓄積されたデータを基に最も省エネとなる走行パターンを導出。これを基に例としては「○○号踏切を通過したらノッチをP4の位置に入れる。」「速度が95Km/hに達したらノッチをオフにする。」「○○駅の手前にある陸橋を越える辺りでブレーキをB4の位置に入れる」「○○駅のホーム先端でブレーキをB7の位置に入れる」などどの地点でどのようなハンドル操作をするかといった指示を運転台の車両情報制御装置の画面に表示する仕組みが構築され、省エネ運転による効果が数パーセント出るだけでも数千万円規模の電力に掛かるコストを削減することが出来ます。
車両機器の状態を常時把握・分析することで劣化を予測して必要なタイミングでメンテナンスする状態基準保全CBM(Condtion Based Maintenance)にも活用することが可能で、車両検修の一部を遠隔でも行えるようになり安全性の向上や車両検修の効率化を図ることも可能になり、走行中に車両故障が発生した際には乗務員と指令員・整備士間の情報共有を迅速かつ正確に行えるようになるため、支障時間の短縮にも繋がります。
また、今後Remoteで取得するデータの範囲をさらに拡大することを検討しており、揺れに関するデータも取得するそうです。特急車両の500系Revaty(リバティ)には車体動揺防止制御装置が搭載されていますが、同装置がどの地点でどのように作動したかのデータを取得することにより、仮に毎回走行中に同じ場所で揺れていればそのデータを基に保線作業員がピンポイントで線路の点検を行い、早期に異常がある箇所を発見し保線作業を実施することが出来るので、保線作業の効率化にもつながります。
このシステムは、60000系・70000系・70090系に搭載されており、今後、新造される車両は、Remoteを標準搭載とし、車上データ監視装置が非搭載の車両については、順次、新型車両に置き換える方針で、2030年代には主要線区で、幅広くRemoteが活用出来るようにすることを目指す予定です。
参考文献
車上データ有効活用システム「「Remote」を本格導入します! 東武鉄道株式会社2021年7月14日のニュースリリース
「東武鉄道の車上IoTが生む電力削減効果、野田線「1両減車」決断にも」翁 羽翔 日経クロステック/日経コンピュータ 日経クロステック
URL(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00001/07131/)2022年12月8日参照