スポンサーリンク

鉄道林

設備
赤渕1号林
記事内に広告が含まれています。

鉄道林とは、雪害や土砂災害から線路を守る目的で設置される土木構造物の一つで、樹林という生きた自然の中で構成される点が、他の構造物にない特徴です。

冬季の赤渕1号林

鉄道が敷設された明治期は、吹雪で列車が立ち往生すると旅客・乗務員共に、命の危険性がありました。当時は、除雪車が無かったため、人力で除雪作業を行っていましたが、地方は、鉄道か道路か優先順位を付けて建設しなければならない時代であったため、鉄道を優先した地域では並行する道路はなく、遭難した列車まで線路を辿るしか方法がありませんでした。吹雪の中、除雪道具を持って現場に向かうのは困難を極め、雪で列車が緊急停車し、外界と途絶したとしても、何日かは生き延びられるように、列車の中に非常食を積み込んでいたことが、記録に残されています。吹雪による雪害の影響を受けやすいのは、周囲より一段くぼんだ区間で、風が運搬する雪の量は、風速のおよそ3乗に比例し、風はくぼんだ部分で渦を作り風速を弱めるため、そこに大量の雪を落とします。風上に吹雪防止林を作れば、林で風速が下がり、林内や周囲に雪が落ちるため、線路上まで運ばれる雪が軽減されます。

地吹雪は、一夜で線路を埋め尽くしてしまうことがあるため、吹雪防止林は、この雪害を軽減するために設置されており、雪を森林内や森の周囲に留めて、線路上への影響を軽減する作用があります。鉄道林は、植林して10ー20年で効力を発揮しますが、木の成長に合わせた手入れが必要なので、植えたらそれで終わりではありません。最初の10年は、幼木の成長を促すために雑草などを除去し、雪による倒木に気を配る必要があるので、以降は、健全な木の成長と防災機能を維持するために、除伐や間伐を行い、数十年すると木を植え替えます。吹雪防止林と並んで重要な鉄道林がなだれ防止林で、着雪を防止するには、スノーシェッドを設置すると良いのですが、コストが掛かるため、全ての箇所には設置することが出来ません。安価な物ならば、防雪柵で雪を止める方法があげられますが、なだれ防止林は、防雪柵と同等の機能を持つだけでなく、雪に直接日光を当てない作用も持ちます。

日光で雪の表面が解け始めると、夜になって解けた雪が氷となり、その上に新たに降り積もった雪と氷の塊が、なだれのきっかけになってしまいます。なだれ防止林は、直射日光を防ぎ、斜面を安定化させることも出来ますが、飛砂防止林は、海岸から風で運ばれてくる砂によって、線路が埋まることを防ぐ鉄道林で、日本海側でよく見られます。雪は春になれば解けますが、砂は除去しない限り残るので、砂の粒子は雪より固く、機器に入り込んで傷付けるのが問題で、分岐器に(ポイント)に挟むと不転換を起こす原因にもなり、蒸気機関車時代は、ピストンとシリンダーの間に入って、運転することが出来なくなる事態もありました。落石防止林や土砂崩壊防止林は、落石や土砂崩壊が起きやすい場所に設けた鉄道林で、根をはらせることで地盤を固定し、土壌に問題があるため、半永久的に土壌崩壊や落石自体を防止することは出来ませんが、発生を遅らせることは出来ます。

水源かん養林は、蒸気機関車の給水などに必要な水を確保するために、給水塔の水源林として設置されましたが、今では役目を終えており、環境保全の目的で、奥羽本線板谷駅付近に残されています。国鉄時代は、鉄道林専門の営林区と苗圃があり、雪に関するものは防雪林と称し、比較的なじみがある用語ではありますが、飛砂など雪以外に関するものは防備林と称されており、防災機能としての機能を発揮するまでに長い年月が掛かりますが、人工の設備と違って、造成時点で意図しなかった多様な環境的、文化的効用を後日求め得るという面もあり、普通の森に見えると思いますが、安全・安定輸送を支える重要な設備です。

参考文献

「特集 環境対策・エコロジー 鉄道林ーその機能と環境文化価値ー」島村誠 JREA2008年9月号社団法人日本鉄道技術協会平成20年9月1日発行

「120周年を迎えた鉄道林 ふぶき・なだれや飛砂など災害から鉄道を守る ー環境対策から新たな取り組みも」 鉄道ジャーナル2013年12月号(株)鉄道ジャーナル社2013年12月1日発行

車掌の仕事 田中和夫北海道新聞社2009年10月1日発行 

タイトルとURLをコピーしました